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20000811


Luzern -> Pilatus -> Luzern



 幸い天気は快晴。といっても山の天気は変わりやすいからあてにはならないが、10:15、くっきりしたピラトゥス山を見上げながらルツェルン港から船へ。

 ルツェルン湖は翼を広げ尾をなびかせた鳳凰のような形をしている。ルツェルンは鳳凰の頭で、ここからまず胸に出る。右の翼を回るならリギ山、左の翼ならピラトゥス山だ。蒸気船はその左の翼の輪郭を思わせぶりに巡りながら、なかなか目的地へ行かない。幾度もともづなをかけてははずし、客をあちこちにばらまき、集める。甲板で強い陽射しに当たりながらぼんやりしていると、湖という面を走っているはずなのに、うねうねと線を描いて、違う面にたどりつきそうな、妙な感覚に陥る。

 そして、どうやら翼の端まで来て、こんな高さをくぐれるのかと思うくらい低い橋を抜けると、実はまだ湖は続いていて、やはり違う面に来てしまった。この面の先がどうやら目指すAlpnachstadで、ここから世界で最も傾斜のきついという路面電車に乗る。線路のつぎ目の鈍い音がいかにも加重がかかっているようで、窓の外には木々の間から名前もわからぬ雪をかぶった山々が見え隠れし、にちゃりと光る線路からは油の匂いが鼻をつく。

 牧草地が切れ岩肌になってから駅に着く。降りて外に出てみると、例の円形レストランがあり、それを回り込むと、これまで見えなかったルツェルン湖の上半身が姿を現わす。それがみるみる雲に隠れていく。ちょうど尾根をはさんで西側からは上昇気流が吹き上げてきて、それが次々と煙って雲にまとまり、尾根が途切れるあたりであちこちに散っていく。尾根に立つと、右は霧で左は晴れている。時間がたてばそのうち視界が開けるだろうと思い、とりあえず南の道を歩いてみる。
 岩山を歩くときは、足元を見る。だから平地を歩くときのような、周りの遮蔽の変化を感じることはできない。少し行っては振り返り、景色の変化を確かめることになる。刻々たる風景の変化、ではない。記憶の断片を綴り合わせ更新される風景。だから、前を見ながら歩くことと、振り返りながら歩くことは、単に未来を見るか過去を見るかの差ではない。変化を歩くか、変化を構成するかの差なのだ。

 はるか下の牧草地からカウベルの音がいくつも響く。牛は点にしか見えない。岩肌の向きによってよく響く場所があって、そこではガムラン風車のように、カラコロといくつもの音程が聞こえる。あちこちにはねかえっているのか音源が定位しにくい。中空から響いているような気がする。霧がかかるとますます連れていかれそうな音だ。椅子に座ってしばらく聞く。

 さらに歩いて別のピークに着く。なぜか犬連れの人がいる。それも紐をつけていない。下から徒歩で上がってきたらしい。スイスでは低い方だとは言え、2000mを越える山だ。そういえばボルドーの砂丘にも犬がいた。海にも山にも犬はついてくる。犬は断崖から頭を出して「ふせ」をした。

 2時間ほど居て満足したので、ロープウェイで降りる。急に降りるので頭がのぼせたようになる。中腹で途中下車して体をならす。今度は4人のりの小さいやつでふもとまで。あまりにあっけないので何かせいせいして、なぜかピカデリーサーカスに戻ったプリズナーNo.6を思い出す。
さあ町に戻ってきたぞ。坂の途中で見つけた古道具屋は、マッチョな親父のやってる店で、陳列ぶりはひどいが、乱雑に積まれた絵葉書を見ると意外に出物が多い。第一次大戦前後のものを中心にあれこれ買う。だってここは町なんだから。

 もう18時だ。坂を降りきったところにあったCoopレストランでサラダバーとスープとパン。8Sfrなり。ホテルに戻り、黄昏を見ながらぼんやりする。

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Beach diary