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梅川と三尺が来て歌留多。
十五夜近い月が皎々と照つて、ヒタヒタ寄せてくる波の音が云ふ許りなくなつかしい。船が二隻碇泊して居る。感慨多少。名刺を波に流した、二人も流した、芸者の名刺も流した。潮が段々充ちて来た。自分らは、梅川の袂に入れて行つたビスケツトを囓つて、”自然”だと連呼した。
”三月十五日は忘れまい”、と一人が云ひ出した。”さうだ、忘られぬ”と一人が応じた。かくて此三人を”ビスケツト会”と名づけた。”ビスケツト会は自然によつて作られ、自然を目的とす”と誰やらが云ひ出した。”毎月十五日には、お互何処に居ても必ずビスケツトを食ふことにしませう”と女が附加した。二時頃月を踏んで帰つて寝る。
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