予は、昨夜彼(ツルゲーネフ)と競争しようと思った事を茲に改めて取消す。予の競争者としては、彼はあまりに古い。話上手だ、少し怠けた考を持って居る。予は予の小説を書くべしだ。 十九世紀: 生誕−恋−熱烈な恋−結婚−善良なる夫−父−死 etc. −夫婦喧嘩−死 今はよほど変った。 生誕−恋恋恋恋 暴風−結婚−不安−苦悶−第二の恋−第三第四−死 etc.
せつ子から手紙。 一寸、出て、名は知らぬが白い筒型の花を買って来て、床の柱にかけた花挿にさす。 ツルゲーネフの続き。室の中を転げ廻った末、”ツルゲーネフ!予の心を狂せしめんとする者は彼なり。”と書いた手紙を下の金田一君にやる。金田一君が来た。予は唯モウ頭が乱れて、”ツルゲーネフの野郎”と呼んだ。そして必ずこの On the eve と競争するものを今年中にかくと云った。