かえるさんレイクサイド (29)



ポストに手紙が入っていた。手紙が着いたということは、地下道が復旧したということだった。手紙はダイレクトメールだった。 「かえるさんさんにお知らせする地下道復旧記念!マシヤデンキは冬もコタツでぬくぬくと!」封筒の裏には「ご来店の方にもれなくハンディ霧吹きプレゼント」とあった。「冬の乾燥肌にしゅっとひと吹き!」


地下道のほとんどはまだ真っ暗で、交差点に来ると凸凹の字で「ヘルロードひがし」とか「まっすぐ」とか書いてある。新しい壁は小石でがたがたしている。ときどきひんやり滑らかなところがあるのは、前にかえるやみみずの通った跡だ。部屋を出たときはずっとがたがただったけれど、しだいに滑らかが増えて、マシヤデンキに近づくといくつもの滑らかが重なって、細かい筋になっていた。


マシヤデンキはけろっと湿ったやすらぎを求めるいきものでごったがえしていた。かえるさんが霧吹き受け取りの列に並んでいると、向こうから拡声器の声がした。「みなさま、地上からエレベーターが参ります。危険ですので端にお詰め合わせ願います。」いきものが一斉に移動を始めた。列はぐちゃぐちゃになった。ぐちゃぐちゃがおさまると、誰もが、息をつめて、巨大エレベーターの階数表示板を見つめた。


1F、B1F、そして扉が開いた。白い煙が立った。エレベーターは零下の空気を地上から運んできたのだった。冷たい空気と暖かい空気が混ざって、霧になったのだった。霧の向こうは零下だった。寒さに弱いいきものたちは霧が近づくと後ずさりした。かえるさんは壁に押されて息が苦しくなった。霧の中から箱を持った店員が現れた。「お待たせしました、霧吹きでございます。」


わっといきものが群がった。箱の中はうっすら露がついていて、まだ地上の冷たさを残しているらしかった。箱に伸びた手はどれも、触ったとたんに引っ込んだ。かえるさんは、いきものたちの隙間からかえるあしを伸ばした。何かに触ったので、ぎゅっと握って引き寄せた。とんでもないマイナスがやってきた。かえるさんは急いで右あしに持ちかえた。やはりとんでもなかったのでまた左に持ちかえた。まだとんでもないので右に持ちかえると、左あしが固くなっていた。固い左あしをそばにいた店員に当てるとぎゃっと飛び上がった。霧吹きを手に入れた。





第三十話 | 目次





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