手彩色の花は妖しい。写真の花の上に筆の花が重なる。その輪郭がわずかにずれている。誰かがしるしを見つけた痕(あと)のように。いや、しるしとはもともと痕ではないか。
 空は、地面に向かって色を失っている。下界では、選ばれたものしか色をまとうことができない。白黒の菖蒲の葉の中に、選ばれた花また花。その向こうに女性が二人、立っている。この世のものではない着物を着て、この世のものではない傘をさしている。この頃の手彩色は、植物染料で為されているという。空も着物も傘も、植物の色だ。
 覗き眼鏡で覗いていると、飛び石のような花をたどって、傘の下まで行けそうだ。そこでぼくはきっと、気が違っている。

19991029



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