Texture Time: 96/07/31

 新幹線の車窓から眺めていて、茶畑らしき丸い曲線の連なる丘と丘の間に色 の濃いアスファルトがちらと見える。低い茶の木の合間にカーブを描いてなく なっていくその色の濃さが突然近しい感情をわきおこす。この風景を時速25 0kmで走り飛ばしているのに、その道に立つ感覚が鮮明に起動する、ちょう どマリオ64やジャンピングフラッシュ2をやり過ぎたあとに、あちこちのビ ルの屋上が、そこに立つことが可能な行動範囲だと思えるように、その風景は パスを切り終えて視点移動のできる3Dオブジェクトになっている。しかし、 そこにはテクスチャは貼りこまれていない。頭の中でたどるアスファルトの道 は、雨上がりの湿った空気をぼくにまといつかせ、その水の粒子が木々のすみ ずみにたどりつこうとする。そこへ皮膚を延ばしていくと、もう木々の形は定 まったテクスチャでは測れず、大きさのない水滴がたどる軌跡であり、その軌 跡の消失点のひとつひとつでできあがった面になりきらないささくれであり、 そのささくれが現われては消えることでぼくの視点は、夏の湿り気を帯びて移 動していることを知る。この、回線が切断されたキーボードから打ち込むこと ばのまとう湿度が、過ぎる高圧線、パンタグラフ、あちこちの線を手掛かり に、丸く刈られた茶木の整った輪郭から飛び出す若い新枝の色のように、こと ばに振動を与え、保証のない空の方向へとことばをのばしていく。ハードディ スクにため込まれつつあることばが、どこのプロバイダでもない場所へ早くも 移動しつつある。

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