Texture Time: 4 Aug. 1999
Den Haag HS -> Brussels





Dortrechtという名前の
99.8.4 11:44

rの声で
99.8.4 11:44

そこはあいかわらずオランダ語の国なのだと知る。
99.8.4 11:45

併走する高速道路の土手に
99.8.4 11:45

生えているのが、あれちのぎくの枯れているようで
99.8.4 11:45

そこだけに眼をやると日本だと思える
99.8.4 11:45

麦畑の色の薄さ、
そしてここからはわからない青葉の植物の青の薄さは
99.8.4 11:46

北のものだけれど。
99.8.4 11:46

薄い雲から指してくる陽は低く、
99.8.4 11:47

長い朝と長い夕方をつくる
99.8.4 11:47

まもなく南中しようとしている陽が
99.8.4 11:47

鉄橋でストロボになり、海に跳ね返る
99.8.4 11:47

その海も遠くまでは見渡せない
99.8.4 11:48

空気は薄く、しかし確かな遠近をもたらす
99.8.4 11:48

どこまでも平たい土地に植えられた木々の高さから
99.8.4 11:49

木ひとつひとつの遠さがわかる
99.8.4 11:49

霧のような明かな白さを持たない薄いもやは
99.8.4 11:49

木の教える遠さよりも近くで、木の姿を不確かにする。
99.8.4 11:50

高圧線の鉄塔の真下に四角く菜の花が植えられているユーモアの上に
99.8.4 11:50

12時の太陽は雲に散光して、パノラマのような光のもやを投げる。
99.8.4 11:51

牛の白黒のまだらの境にも、そのもやはふりかかる
99.8.4 11:51

南側に向いた窓
99.8.4 11:52

つまり列車はいま西に向かっている。
99.8.4 11:52

オランダからベルギー=南下という考えがゆらぐ
99.8.4 11:52

ぎざぎざした海岸線のように、細かく西にも東にも進むこの列車は
99.8.4 11:53

西と東の繰り返しに混じる南で内陸に向かう
99.8.4 11:53

その南からの日光で
99.8.4 11:53

ぼんやりとあたたまっている自分の額と
99.8.4 11:53

そこからひろがっていく熱
99.8.4 11:54

道沿いに列車のように連なり線路と併走する木々が
99.8.4 11:54

その熱の広がりを示す
99.8.4 11:54

街灯のかわりに街路樹
99.8.4 11:55

おそらくこのあたりの夜は真っ暗だ
99.8.4 11:55

昼のための灯りのような、その樹影の丸さ
99.8.4 11:55

水の冷たさで変色した肌のような、レタスの色
99.8.4 11:56

陽射しは暑い、しかし、これはほんとうに
99.8.4 11:56

南に向かっているのか
99.8.4 11:56

さっき飲んだ
99.8.4 11:58

Yogho! Yogho! という
名のヨーグルトドリンクの
99.8.4 11:58

甘い味が舌の奥に残っている。
99.8.4 11:58

それがまとわりつくようにいがらっぽく
99.8.4 11:59

オランダ語のgの音を思い起こさせる。
99.8.4 11:59

高圧線からゆるく重たく垂れ下がるようなその音
99.8.4 11:59

その舌の形
99.8.4 11:59

見渡す限り田園で、電車は速度をゆるめる。
99.8.4 12:00

Heeroen Roosendaal
99.8.4 12:01

--------------------------------------------

同じようにこちらを向いて牧草をはむ牛たちは
99.8.4 12:13

電車の側に向かっている
99.8.4 12:13

そのゆっくりと進んでくる速度をとらえるのは難しい
99.8.4 12:13

ただゆっくり進んでいるらしい、ということがこの車窓からは見える。
99.8.4 12:13

線路端に生えている菜の花も
99.8.4 12:14

だ、菜の花らしい、とわかるだけだ
99.8.4 12:14

国境を見分けようとして
99.8.4 12:14

さっきたべたパンとチーズのもたらすむかつきのことを
99.8.4 12:15

考えている
99.8.4 12:15

いま見えている森それがどのようなできごとの連なりのあとにあらわれ
99.8.4 12:16

何をもたらそうとしているのか、
そういう風に考えることに眼の力が及ばない
99.8.4 12:16

近くのあざやかすぎる黄色はせいたかあわだちそうに似ている
99.8.4 12:17

だちょうを飼う牧場
99.8.4 12:17

スーツを来て自転車をこぐ婦人
99.8.4 12:17

平坦な地を走る鉄道は、牛の白黒の連なりににて町と田園を繰り返す
99.8.4 12:18

どの土地も、自然のまますておかれているのではない
99.8.4 12:18

人間の手が及び、使われ、あるいは捨てられた土地
99.8.4 12:19

二次林
99.8.4 12:19

その二次林も、あたかも森林公園、と呼びうるかのように
99.8.4 12:19

整えられた道で貫かれている。
99.8.4 12:20

白い門の並ぶ端正な町並み。
99.8.4 12:20

その白さが、これまでにない町のありさまを予感させる
99.8.4 12:20

自転車は走り続ける
99.8.4 12:21

走り続ける自転車を追い抜く列車
99.8.4 12:21

その車窓から見るこの風景
99.8.4 12:21

プールから上がったあとの不自然な身体のほてりを感じるように
99.8.4 12:21

上半身の緩い日射病にかかったようなだるさがあって
99.8.4 12:22

だるさの中で、連なるように家並みが線路を交差し
99.8.4 12:23

尖塔が経ち
99.8.4 12:23

そのだるさが先ほどと何ら変わらない時間であることを示すように
99.8.4 12:24

後ろの席からオランダ語の声が続く
99.8.4 12:24

この列車の行き先は決まっている。
99.8.4 12:24

が、この繰り返し、家並み、尖塔、ことばをずっとこの席で
99.8.4 12:24

この列車で
99.8.4 12:25

この陽射しで
99.8.4 12:25

続けていくとしたら、これが逃れられない繰り返しだとしたら。
99.8.4 12:25

Antowaapen Noorden
99.8.4 12:25

さっき、あるポイントで、
99.8.4 12:26

確かに国境を越えた。
99.8.4 12:26

そのしるしを見なかったけれども
99.8.4 12:26

そして減速していくこの列車の到着先はブリュッセルだ
99.8.4 12:27

だが、この煉瓦造りのファサードの、どこにベルギーらしさを求めよう。
99.8.4 12:28

古い尖塔の壁、そして新しくはまった時計盤にさえ、
デンハーグと同じものを見出してしうのに。
99.8.4 12:28



prev..... menu..... next