Texture Time: 13 September 1996
南彦根 -> 京都

Texture Time: 96/09/13

扉をあけると肉の匂いがして 96.9.13 1:49 PM 匂いをがまんするうちに、それは牛肉弁当だとおもいだした。 96.9.13 1:49 PM 牛肉弁当は米原のプラットフォームで売っていて、 96.9.13 1:50 PM ぼくは新幹線に乗るときによく買う 96.9.13 1:50 PM この列車は米原からきて 96.9.13 1:50 PM 誰かの開けたべんとうの香りにまかれて 96.9.13 1:50 PM 僕は食欲を抑える 96.9.13 1:51 PM 煮汁の染みた春雨の色を思い出しながら 96.9.13 1:51 PM 能登川に着く 96.9.13 1:51 PM 外は久しぶりの雨で、しけった背広の匂いが春雨に混じる 96.9.13 1:52 PM 遅いひまわりが思い思いの方向をむいている 96.9.13 1:53 PM 稲はあちこち刈り取られて、晴れた日ならそこはからすのたまり場になってい る 96.9.13 1:53 PM 藁が端をしぼられて、濡れそぼったちょんまげのように高圧線の足にひっかけ られている 96.9.13 1:55 PM 蔵屋敷風の家の物干しに閉じられた傘が2つ下がっている 96.9.13 1:55 PM もしもしカトウです、篠原で下りたほうがいいかな、そのほうがまちがいがな い、 96.9.13 1:58 PM 10ぷんか15ふんでね、 96.9.13 1:58 PM 前の席の携帯電話の声には、はっきりとした輪郭がある 96.9.13 1:58 PM 駅に着くと枕木がよくみえる 96.9.13 1:59 PM たっぷりとふくまれた水が、あちこち浮き出して小さなたまりになっている 96.9.13 2:00 PM その枕木が後ろに走り出す 96.9.13 2:01 PM 湿り気を鈍らせた幾筋もの線の運動になる 96.9.13 2:02 PM 瓦屋根が濡れている 96.9.13 2:03 PM バリから持ち帰った小さな花瓶は水が漏ってしまった 96.9.13 2:03 PM 焼き目が粗いから、眼にはみえないすきまから水が外に染みだすらしい 96.9.13 2:03 PM いまは筆立てになっている 96.9.13 2:04 PM 野洲小学校学習田、と看板をかかげた田があり、 96.9.13 2:09 PM アラカワ澱粉、と書かれて囲まれた竹林がある 96.9.13 2:10 PM 隣に人が座る 96.9.13 2:10 PM 所有 96.9.13 2:10 PM パソコンを広げ必要以上に場所を取り、低いキーの音をたてるぼくの場所は、 96.9.13 2:11 PM 二人掛けで 96.9.13 2:11 PM 傘があるからよけいに場所をとる 96.9.13 2:12 PM 次の駅まで間がないから、列車の速度はさしてあがらず 96.9.13 2:13 PM ゆるやかな振動で窓の雨粒が 96.9.13 2:14 PM 隣り合わせでくっついて水滴になり 96.9.13 2:14 PM 行く先々で手近な雨粒から少しずつ水をちょうだいしながら落ちてくる 96.9.13 2:14 PM なめくじのように無駄に足跡を残すので、 96.9.13 2:15 PM いくら水を借りても水滴は大きくならない 96.9.13 2:16 PM かぼちゃ色の電車が通り過ぎ、 96.9.13 2:16 PM ひとつひとつの水滴の中にかぼちゃ色が映る 96.9.13 2:16 PM 缶コーヒーが匂う 96.9.13 2:18 PM 牛肉の匂いはもう微かだ 96.9.13 2:18 PM

prev..... menu..... next