列車を待つ。
あと10分で電車がくる
ぼくは寒さをしのぐために駅舎の二階のいすにすわって
おなじように列車をまつひとたちの中でかちゃかちゃと音を立てる
いすにすわりながら視線はいどうする
番線の番号の「2」
その番号がうらがえっている窓ガラス
さらにガラスをたどるとうらがえしの1
そしてそのガラスにむかう人
彼からみえるのはたぶん窓の外の風景か、あるいは
彼もまた同じようにガラスの中をたどっており
その中にveryverykyotoという広告
アラーム
とともにいすからたちあがるひと
東出口
←
ぼくはその←をたどるのではなく←そのものを見る
左をさされるということをうけとる
左をみるのではなく

このさむいのにオロナミンですか
その自動販売機ではぼくも迷った
ばたーたっぷりコーンスープがうりきれだったし
しかたなく紅茶伝説にしました
などと書いているが
もうおろなみんの人は一階のホームにおりてしまった
そしてまた自動販売機で迷うひと
彼は眺める、まだ眺めている
金をいれる
レモネードだ
たしかあれは冷たいはずだ
さっきぼくも検討したからわかってる
この寒いのにあの冷たいレモネードをなぜあなたは飲むのだ
しかももうのみおわってしまった
そんなにあっというまにのむのはなぜだ
「2番線に電車がはいります」
95.12.21 21:27


おろなみんの人と同じドアから乗った
おろなみんの人はまだおろなみんをのんでいない
そのかわりに財布の中身を勘定している
ぼくは報告者のように書く
「この電車は普通姫路行きです」
と告げる掲示板のように

床に金具の落ちる音
おろなみんだおろなみんのふただ
おろなみんをのんでいる
何口もにわけて飲む
窓の外をみながら飲む
休む
びんをふる
もうない、いやまだか
びんをふる
もうないよ、それはもうない
だが髪をかきなでると、
彼女はもう一度大きくびんをかたむけて最後の一滴までのみほし
髪を整えるそしてここ稲枝は南彦根からふた駅めで
だれものりおりしない
しずかな車内
おだやかな夜
おだやかな夜にちゃりちゃりと音がする
彼女が小銭を数えている
ポケットの中のも出す
橋
報告という誘惑
おろなみんの人は立ち上がる能登川
座席の下におろなみんの空き瓶

別の若い男が
すわる、おろなみんが倒れる
倒れている

倒れている
報告者という特権意識が
報告を続けさせる
もしここで打つことをやめたら
あのおろなみんがどうなったか、きっとだれにもわからない
だれにも、の、だれ

ブレーキがかかりおろなみんがにぎやかな音をたてて転がりだす
安土
ここからはみえない
からからと、二度めのころがり
そしてまたころがる、さっきよりすこし低い音
おろなみんの場所がわからない
たぶんまたころがるだろう
窓の外にみえている尾根のあかりは比叡山だろうか
くらがりに空中楼閣のような尾根

減速だ、おろなみんはどこだ

電車にのるまえに、席をたとうとして
キーボードにほこりがおちてるのにきづいた
よくみたら雲の市街だった
天井からくもの市街がふってくる偶然
だれかがおろなみんを飲むを目撃する偶然
だれか、の、だれ

95.12.21 21:52

少しあきたので、かいたことを読み返していた
クモの死骸、が、雲の市街、と書かれていた
もう比叡山のあかりはかすかになった、こちらがわにまわってきたのだ
琵琶湖をめぐるこの電車はしだいに比叡山を見る角度をかえながら
などとぼくはだれのために書くのだ
95.12.21 22:07

「どうした1号、報告なさい」
95.12.21 22:11

隣にあなたがすわる
95.12.21 22:18

観客ができた、わかりやすい観客
ぼくは具体的な報告者になる
あなたに見せるために
このトンネルのあかりが通り過ぎることとか
前にいるカップルのとりとめのない話とか
あるいは誰かが蹴る間の音とか
ぼくは画面を見ず、それらをただ楽天的にかきとめ
そしてそれは誰かのモニターに表示される
このモニターに表示される
あなたがモニターを見る、という行為が
わかりやすい形で
読む人の存在をぼくに教え
ぼくに書かせる
これを見るあなたは
どこからでもアクセスし
あるいはいまアクセスし
このかかれつつあるテクストを読む
プラットフォームでたばこをふかす人、とぼくがかけば
あなたは窓の外にその人をさがすだろう
ぼくの手がとまることで
世界がとまる
このモニターの中では
世界はそのようにうごいている
限られたでんこうけいじばんをながめるように
あなたはただながめる文字からうかがえることだけをてがかりに
この世界をのぞく
トンネル
とかけばトンネルが現れる
ここがトンネルだ
思考のトンネル
その片隅にあるかもしれないおもしろい形のしみだとか
水滴のしたたりおちる様だとか
ささいなできごとをふりきり
ただ過ぎるトンネル
あなたはこの文字を通して見ることのできることを
みる
ただ
窓の光景とてらしあわせながら
窓の光景に照応するなにもないことを確認する
京都だ

95.12.21 22:27


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