大正五年、番地入改正最新東京市全図を歩く




図1:表側、東京市全図の一部(右が北)
浅草・上野公園が赤く塗られている
真ん中付近、傾いだ長方形が吉原
浅草付近を拡大 (248k)


 この地図(図1)は古書屋で1000円くらいで買った。折り目がきつい、変色もひどい、虫も食っている。コレクターなら恥ずかしくて人に見せたりはしないだろう。
 が、なあに、気軽に取り出して眺めるには、これくらい汚れているくらいが気楽でいいのだ。それに、汚れてるとはいえこの地図はなかなかに詳しい。いまは失われた町名も詳細に記されているし、裏側には付録として浅草、上野、日比谷の各公園の拡大図まで載っている。明治・大正の文学を読むのにちょうどいい。もちろん、この地図を頼りに現在の東京を歩くのもいいだろう。
 裏側の浅草公園全図(図2)を見てみよう。十二階と花屋敷の五層楼が地図を突き出ている。地図は池や高層を書く時に、やや平面から離れて視点を俯瞰する。ディティールを描こうとしてついつい平面を離れ過ぎてしまう。そして描き込み過ぎた五層楼の方がやけにでかくなっている。そんなところも楽しい。

 ぼくは、この地図を画像ソフトで思い切り拡大し、ウィンドウは逆に小さく取って、あちこちスクロールしながら谷崎潤一郎の「秘密」や「襤褸の光」や「鮫人」を読み直した。ウィンドウという限られた視野の中で、地図はあたかも先の見えない迷宮と化す。大正期の劇場の名前もちゃんと書いてある。赤い線画がかえって、想像をたくましくする余白を生む。

 そんな風に、ぼろぼろの地図をたどりながら、手元の本をいくつか拾い読みしてみよう。(続く)  
(2001 August 8)





図2:裏側の付録「浅草公園全図」
六区拡大図 (308k)
観音堂付近拡大図 (212k)



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