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19990804



▼荷造りをしたりネットにつないだりしてるうちに出発の時間だ。1106デン・ハーグ発。久しぶりにTexture Timeを行うが、なんだか二日酔いでいまひとつだった。

▼1340ブリュッセル着。とりあえずBuersまで行って予約していた宿 Hote Ponietere に荷物をおろす。ここで、ヨーロッパのホテルのエレベーター初体験。噂には聞いていたが、これがヨーロッパ式の引き戸式のエレベーターか。それにしても、筋金入りのぽんこつだ。引き戸は金属板で、発着音はなし。縦長の細い飾りガラスの窓がはめてあって、かごが降りてくるとそこが明るくワイプされるので到着がわかる。引き戸をあけるとかごには扉がない。扉がないだけでなく、反対側も壁がない。0Fだけがこちらがわに扉があって、1F以降は逆の側が開くようになっている。だから、かごには二面しか壁がない。「死刑台のエレベーター」のせりふに出てくる、壁の見えるエレベーターってやつだ。見えるだけでなく触れる。最大乗客数4人。体格のいいホテルの主と荷物とで乗ると、それだけで満員。しかもバランスにこつがあるらしく、入り口と逆の側に体を寄せないとエレベーターが発進しない。
行き先ボタンを押してもパイロットランプはつかない。現在地を示す階数表示もない。まあ、各階の扉が直接見えて、そこに階数が書いてあるから、とくに必要はない。
主人は、いまは陽射しがあついからと気をきかせて、中庭に面した部屋をとってくれた。3Fで降りると右に曲がり左に曲がりなぜか階段を降りたところ。火事になったらこのルートは危ない。窓から中庭に逃げるしかないな。
▼エレベーターの横にとても眺めのいい部屋があって、いつもドアが誘うげに開け放してある。エレベーターに乗る前にそっとその部屋に入って窓から外を見渡した。

▼宿から地下鉄でMerode駅を出て公園に向かう。ベルギーは地下鉄構内で音楽を流している。いわゆるエレベーターミュージックだ。携帯も車内で使ってる。うるさいベルギーのわたし。▼目指すは王立軍事博物館。「パノラマの世紀」によれば、ここに「イゼールの戦い」他、パノラマ画が保存されているのだ。少し行くと、巨大凱旋門が見える。女神が彼方を指し、獅子が天に吠えている。近づくと、その門の両側にどでかい建物があって、右が王立軍事博物館だ。さっそく中に入ると、あるわあるわ数々の軍人画に戦争画。小さいものでも身の丈くらい、大きいものでは数mクラス。それが軽く百枚は飾られている。戦争画の方はひとつひとつよく見るとそれなりに味がありそうなのだが、フロアいっぱいにガラスケースに納められた軍服だの剣だの銃だのが展示されていて、絵をゆっくり見るというよりは、その物量で見るものを圧倒する展示形式になっている。そして、行く部屋行く部屋すべてそういうガラスケースだらけだ。麗々しい飾りのついた銃の握りだの、なんとか将軍の勲章だの、見る人がみればひとつひとつ意味があるんだろうが、ぼくにはただただうんざりするほどものものしい。はいはい、王の力のほどはよくわかりました。
屋上にのぼると、そこは凱旋門の上で、さっき見上げた彫刻が間近に見える。ブリュッセルの町が広がっている。たぶん、あれこれ知っていればどこがどれと指せるのだが、いまのところはただだだっぴろい町だという印象。
下でパノラマ画について尋ねると、補修に入っていて展示されていないとの由。がっかり。近くにあるイスラミックセンターが元パノラマシアターだったらしい、と学芸員が教えてくれたので、そちらに行く。
 なるほどドーム+入り口というパノラマ的構造。入り口はどこだ。ぐるりと半周すると、ちょうどバックパッカーのムスリム風が入っていくところだったので、いっしょに入り口をくぐる。ぼくはムスリムではないが、事情を話すと中に入れてくれた。
 外周は事務室と個人用の祈祷場所になっていた。中央の部屋にはじゅうたんが敷き詰められ、ここは集団用の祈祷場らしい。パノラマ館ならここから見物台に上がる階段があるはずだ。端にあるスペースの陰になっているのがそうかもしれない。二階はどうなっているのだろう。見物台がアレンジされているとすれば、中央の台から周囲を見渡す構造になっているはずだ。外側から確認できるステンドグラスも大いに気になる。が、これ以上深めるにはムスリムでないと難しそうだ。8・15にはガイドつきで一般公開されるらしいので、いったん出直すことにする。

▼Central駅からあちこち迷いながらグラン・パレスを目指す。途中、明らかにパサージュとわかる暗がりがあって、しかもそこは古書街じゃないか。お、ステレオ写真が飾ってある。こっちでは「パサージュ」といわずに「ギャルリー」というのか。それとも「ギャルリー」と「パサージュ」は別物なのかな。今日はもう遅いけど、このあたりはあとで一日かけて深めたい。
 グラン広場。でかい。迫り来る壁に聖人の彫刻の列。向かいの巨大な邸宅の上にもラッパを吹き鳴らすガブリエル。これはあれだ、デン・ハーグ美術館の宗教画にいやっちゅうほどあった光臨風景、現実に天の使いが好きなだけ割り込んできて、こちらの知らないところでそでを引いたり祝福を投げたりするあの世界だ。それが好きだろうが嫌いだろうが、こちらはそれを見上げるしかない。恐れ入るしかない。レベル、ということば。聖人のレベルというものがこの国にはあるのだ。
 ぼくは「ばっかでー」とか「あほらしい」とか言いながら、iのマークの観光情報センターでマップと英語のガイドブックを手に入れる。手に入れたがどうする。石畳のあちこちで、この大いなる壁に囲まれて途方に暮れている旅行者たちが、足を投げ出してビールやワインを飲んでいる。18:00を過ぎてもまだ数時間はてんで明るいこの町で、いったいどうする。ファルスタッフとかいうアール・ヌーボー風のレストランに行ってみたが、高いばかりでまるでピンとこない。ガイドブックにあったシュルレアリストの家というのに行ってみたが、女主人が表で暇そうに本を読んでいて、間接に外光で照らされた室内は、やけに古びて見えて、小粋に切り取られた便箋のコラージュがめくれあがっているのが、いかにもつわものどもの夢のあとに見える。ビールをいっぱい頼んで室内を見渡してみたが、色文字で記されたことば遊びの数々も、ますます夢のあとだ。なじみの客が一人二人、通り掛かって、外でワインを飲みながら談笑している。来るのが早過ぎた。ここは日本じゃないのだ。サマータイムの8時じゃまだ夜とはいえない。
 結局グラン広場に戻って、観光客らしく途方に暮れてビールを飲む。ねっころがると聖人たちが広場をはさんで向かい合ってお話をしているらしい。

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Beach diary