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20020918







 部屋はとても気に入った。机も広いし眺めはいい。パノラマも近い。トゥーンの街並みは歩いていて飽きない。この際、ポルトガルはあきらめてトゥーンに泊まることにすれば、旅行代理店に行く必要もないし、散歩が山ほどできる。あれこれ考えも進むだろう。そうしよう。

 さてロリータの続きをと思ったら、なんとしたことか、「ロリータ」がないことに気づく。パリのホテルで忘れたのか、はたまた公園に置いてきたのか。折り目も書き込みもたくさんつけたのに。ちょうどビアズリーでロリータが突然いなくなってしまうところだったのに。

 意気消沈して、それでも、まずは連泊しようと思い係でたずねると、金曜日と土曜日は満室とのこと。一気に気が暗くなる。週末をどうするか。ベルンで泊まるのはうんざりだ。これは何のトラベルチャンスなのか。ついにユングフラウでヨッホッホなのか、それとも無理を押して陸路でポルトガルなのか。

 もやもやした気持ちのままベルンへ。さいわい大きな本屋に「ロリータ」はあった。Annoted版ではない、薄いやつだが、ページナンバーも、字のかすれ具合もちょうど同じだ。日記につけたページ数がそのまま使える。218ページの次は219ページだ。「ロリータ」の数字は重要な瞬間を意味する。たとえばこんな風に。


  ロリータは笑った。
 「もし彼が本当に警官なら」その声は甲高かったが、筋は通っていた。「最悪じゃありませんこと、こっちがおびえているところを見せるなんて。無視よ。おとうさま。」
 「とにかく」私はもうあきらめた。「たったいま彼の顔を見たんだ。見られた顔じゃない。親戚にトラップというやつがいるがまさにそっくりだ。」
 「たぶんトラップ本人よ。もし私が同じ立場なら・・・あ、見て。全部9だったのが1000に変わるわ。私、子供の頃ね」突然ロリータは続けた。「数字を止めて9並びに戻せると思ってたわ、ママが車をバックさせてくれさえしたら。」
(p219)

 KunstMuseumでクレーを見直す。もう一度見たかった絵がいくつか入れ替わっていた。残念。


 旅行代理店を何軒か回ってみるが、やはりポルトガルまでは飛行運賃だけで400CHF前後かかる模様。まあそれは我慢するとして、問題は20日の便がどうしても取れないことだ。となると、どこかに宿替えせねばなるまい。ここは出たとこ勝負、チューリッヒかジュネーブに一泊するか。

 こういう旅のプランを考えてうだうだするにはスイスはどうもよくない。店はすぐ閉まるし、遅くまで空いている場所はやたら混んでいて、一人では気が重い。他のホテルをあちこち回ってみたが、どこも一泊100CHF以上だ。
 気晴らしにインターネットカフェに入ったら30分で7CHFだった。店主の愛想はとてもいいのだが、高いものは高い。客のほとんどは軍人だった。たぶん友達か家族にメールを打っているのだろう。

 どうにも考えがイヤな方向にしかいかないので、ホテルの下のレストランで定食。トゥーンをあちこち回ったが、このレストランの賑わいはたぶんこの街で三本の指に入ると思う。実際、安くて旨い。Tages Menuがパスタで15CHF, 肉料理で17CHF。量もちょうどいい。ビールを飲むうちにとりあえず気は紛れる。

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