かえるさんレイクサイド (8)



かえるさんはモーニングを食べようと雨上がりのヘルロードを進んでいたが、跳び疲れたのでココヌの前で休むことにした。ココヌの前には屋根つきの休憩所があって、からだが乾くのを防いでくれる。木の切り株も置いてあった。かえるが腰かけるには大きすぎるが、切り株はひんやり湿っていた。


切り株を見上げると、見慣れないものがびっしりとくっついていた。うすい茶色の耳たぶのような形をしている。上の方は陽に透けている。かえる前あしでさわってみると、ぷるぷるとふるえる。両あしでつかんで、端っこを少しだけちぎってみた。それはほほぶくろくらいの柔らかさで、ゆび先でつまむとくにゅくにゅとへこんだ。


ココヌでこれと似たやわらかさのものを食べたことがある。ハエと藻のサラダの中に、くにゅくにゅしてぷつぷつ切れるものが入っていた。あれは、もしかすると、これかもしれない。これだとしたら、たべられるのかもしれない。でも、たべてはいけないものかもしれない。端っこを口に入れてみた。口の中でぷつぷつと切れた。


かえるさんはひとまず喫茶に行くことにした。かえる水を飲みながら、さっきのくにゅくにゅしたもののことを考えた。たべてしばらくたったけれど、おなかはなんともない。なんともないということは、たべてもいいものだ。でも、たべてもいいものが、あんなところにあんな風にびっしり生えているものだろうか。思い出すと、口の中がむずむずしてきた。


帰りに切り株に寄ってみると、さっきと様子がちがっていた。切り株に陽が当たって、茶色かったはずのくにゅくにゅが黒くなっている。ゆびでさわってみると、かちかちになっている。おなかをさわってみた。おなかはかたくなっていない。かえるさんはかちかちに跳び上がってみた。腰かけると、それはおしりの大きさにぴったりだった。かえるさんは端っこをちぎって口に入れると、それがぜんぶふやけるまで、あしをぶらぶらさせていた。





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